「税理士に頼むと30万円以上かかると聞いた。自分で申告書を作れば、その分節約できるのでは」──相続税の申告を前に、そう考える方は少なくありません。
結論から言うと、財産が現金と預貯金だけのシンプルなケースなら、自分での申告は十分可能です。一方で、不動産や非上場株式が含まれる場合は、評価方法を誤ると数百万円単位で税額が変わることがあり、税理士費用より高くつくこともあります。
この記事では、自分で申告できるケース・できないケースの判断基準、必要書類、申告書作成の手順、そして「自分で申告すると税務調査に狙われやすいのか」という不安に、具体的な数字で答えます。
相続税申告を自分でできるケース・できないケース
まずは、ご自身のケースがどちらに当てはまるかを確認してください。
| 自分での申告に向いているケース | 税理士への依頼を検討すべきケース |
|---|---|
| 財産が現金・預貯金・上場株式のみ | 土地・不動産が含まれる |
| 相続人が1〜2人で関係が良好 | 相続人が多い、または関係が複雑 |
| 特例(小規模宅地等・配偶者控除)を使わない | 各種特例を適用したい |
| 財産総額が基礎控除に近く単純 | 非上場株式・事業用資産がある |
| 時間に余裕がある(申告期限まで数ヶ月以上) | 申告期限が迫っている |
とくに不動産が含まれる場合は注意が必要です。土地の評価額は「路線価方式」や「倍率方式」、さらに形状・接道状況による補正など専門知識が必要で、評価の仕方次第で数百万円の差が生まれることがあります。
うちは実家の土地が1つあるだけなんですが、それでも税理士に頼んだ方がいいんですか?
土地が1つでも、評価額の計算次第で税額に大きな差が出ます。たとえば旗竿地(接道部分が狭い土地)や不整形地は減額補正が使えますが、これを知らずに単純計算すると本来より高い評価額のまま申告してしまうケースが多く見られます。土地がある場合は、少なくとも評価だけでも税理士に確認することをおすすめします。
自分で申告する場合の必要書類一覧
自分で申告する場合、以下の書類を集める必要があります。
- 📄 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
- 📄 相続人全員の戸籍謄本・住民票
- 📄 相続人全員の印鑑証明書
- 📄 遺産分割協議書(分割が確定している場合)
- 📄 不動産の登記事項証明書・固定資産税評価証明書
- 📄 預貯金の残高証明書(死亡日時点)
- 📄 有価証券の残高証明書・評価明細
- 📄 生命保険金の支払通知書
- 📄 債務(借入金・未払金)の明細
- 📄 葬式費用の領収書
相続税申告書の様式(第1表〜第15表など)は、国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧」ページからPDFで入手できます。財産の種類ごとに使う表が異なるため、まず自分の財産に該当する表を洗い出すところから始めると迷いにくくなります。
戸籍謄本を「出生から死亡まで連続して」集めるのが大変そうなんですが、なぜそこまで必要なんですか?
被相続人に認知していない子や、離婚歴のある元配偶者との子など、把握していない相続人がいないかを確認するためです。本籍地を転々としている場合、複数の市区町村役場に請求する必要があり、郵送での取り寄せだけで1〜2ヶ月かかることも珍しくありません。早めに着手してください。
相続税申告書の作成手順(6ステップ)
| ステップ | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 相続人の確定 | 戸籍謄本を収集し、法定相続人を確定します。 |
| 2 | 財産・債務の洗い出し | 預貯金・不動産・有価証券・生命保険・借入金などをすべてリストアップします。 |
| 3 | 財産の評価 | 不動産は路線価方式・倍率方式で、株式は相続開始日の終値等で評価します。 |
| 4 | 遺産分割協議 | 相続人全員で分割内容を協議し、協議書を作成します。 |
| 5 | 申告書の作成 | 国税庁の様式(第1表〜第15表)に基づき、財産評価額・控除額・税額を記入します。 |
| 6 | 提出・納税 | 被相続人の住所地を管轄する税務署に申告書を提出し、同じ期限内に納税します。 |
国税庁の確定申告書等作成コーナーでは相続税の申告書作成も一部対応しているほか、e-Taxでの提出も可能です。ただし土地の評価や特例の適用要件判定は自動計算されない部分が多く、手作業での確認が欠かせません。
自分で申告すると税務調査に選ばれやすい?実際のリスク
相続税の実地調査は、申告件数のうち**約20%**程度で行われるとされています。「自分で申告すると狙われやすい」という噂がありますが、これは正確ではありません。実際に調査対象になりやすいのは、次の2パターンです。
- 財産評価に誤りがある申告
- 申告された財産と、生前の所得・資産から推定される規模に大きな乖離がある申告
税務署は被相続人の生前の所得・保有資産の情報をシステム上で把握しています。そのため、自分で申告したか税理士に依頼したかにかかわらず、この2点に当てはまる申告は調査対象になりやすくなります。
一方で、税理士に依頼した場合だけ使える制度があります。「書面添付制度」です。税理士が申告内容の根拠を書面で税務署に提出する制度で、適用されると税務調査の前に税理士への意見聴取が行われます。いきなり実地調査になりにくいというメリットがあり、自分で申告する場合はこの制度を使えません。
評価方法を間違えただけなのに、ペナルティを取られるんですか?
自主的に気づいて修正申告した場合、過少申告加算税はかからないか、かかっても低い税率で済むことが一般的です。ただし延滞税は発生します。悪意のない単純な評価ミスであっても、後から気づくより先に専門家に評価を確認してもらう方が、時間的にも金銭的にも負担が小さく済みます。
不安な場合に税理士へ相談すべき理由
税理士報酬の目安は、遺産総額の0.5〜1%程度(遺産総額5,000万円なら25万〜50万円程度)とされています。決して安くはない金額ですが、以下のようなメリットがあります。
- 土地評価の減額要素(不整形地・無道路地など)を見逃さず、適正な評価額で申告できる
- 小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減など、要件が複雑な特例を正しく適用できる
- 書面添付制度により、税務調査の可能性そのものを下げられる
- 期限内に確実に申告を終えられる
多くの税理士事務所は初回相談を無料で受け付けています。「自分で申告できそうか」を判断する材料として、財産の内容を伝えた上で見積もりだけ取ってみるのも一つの方法です。
フル依頼と自分で申告の「中間」の選択肢もある
フル依頼(30万円台〜)と、ゼロから自分で申告する方法の間には、税理士のアドバイスを受けながら自分で申告書を作成する「アドバイス型」の格安サービスという選択肢もあります。
「相続税関係で質問です。better相続税申告という、税理士さんにアドバイスを受けながら自分で申告するタイプのものが79,200円で見つけました。税理士さんに申告を頼んでも一律385,000円で。一般の税理士さんと比較するとかなり格安です。どんな感じなのか知っていたら教えてください。よろしくお願いします」 (出典:Yahoo!知恵袋 相談事例、2021年11月投稿/質問ページ)
この投稿にあるように、フル依頼とアドバイス型サービスとでは費用に大きな差があります。ただし格安な分、対応範囲は「個別の質問への回答のみ」など限定的なケースもあります。利用する際は、申告書全体をチェックしてもらえるのか、不備があった場合の責任の所在はどこにあるのかを、契約前に確認しておくと安心です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。