「相続税はいくらからかかるの?」と調べると、どのサイトにも「3,600万円が目安」と書いてあります。ところが、実家の土地を不動産サイトの相場で足してみると、あっさり超えてしまい、「うちも払うことになるの?」と不安になっていませんか。
実は、相続税がかかるかどうかを自分で判定すると、多くの人が3つのポイントで間違えます。1つ目は「自分がもらう額」で判断してしまうこと。2つ目は実家を時価で計算してしまうこと。3つ目は生命保険などの非課税枠を引き忘れることです。
この記事では、この3つの誤解をほどきながら、「うちは相続税がかかるのか」を3ステップで判定する方法を解説します。税額の目安や、税金がゼロでも申告が必要になるケースも記載しているので是非ご確認ください。
結論|遺産総額が「3,000万円+600万円×相続人の数」を超えたらかかる
相続税は、遺産の総額が基礎控除額を超えた場合にだけかかります。基礎控除額は次の式で計算します。
💡 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 相続人の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 子1人 |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者+子1人/子2人 |
| 3人 | 4,800万円 | 配偶者+子2人 |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者+子3人 |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者+子4人 |
(出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」)
「3,600万円が目安」と言われるのは、相続人が1人のときの金額だからです。相続人が増えるほど、相続税がかからない範囲は広がります。
実際に相続税がかかるのは、亡くなった方のおよそ10人に1人です。政府広報オンラインによると、令和4年分の課税割合は9.6%でした。(出典:政府広報オンライン「相続税はいくらから?基礎控除とは?」)つまり、残りの約9割の家庭では相続税がかかっていません。
ネットで「3,600万円を超えたら相続税」と見たんですが、うちは子どもが2人なので、1人あたり3,600万円までは大丈夫ということですか?
いいえ、違います。基礎控除は「1人あたり」ではなく、遺産全体に対して1回だけ使う枠です。子ども2人なら、遺産総額4,200万円までが非課税になります。1人3,600万円ずつ、合計7,200万円まで非課税になるわけではありません。
よくある勘違い|判定は「自分がもらう額」ではなく「遺産全体」
相続税がかかるかどうかで、最も多い勘違いがこれです。判定は「自分の取り分」ではなく、亡くなった方の遺産全体で行います。
「昨年父親が10月に他界しました。(中略)法定相続人は私 、兄の2名になるので、4200万円までは非課税です。今回、遺産総額が不動産約3000万円、預貯金が2000万円、株代金が1000万円あります。遺産は、2人で半分づつ分ける予定です。つまり、3000万円が私の受取額になります。(中略)その場合、3000万円が私の受取額となった場合、相続税は支払う必要はありますか。」
ベストアンサー:「遺産が6000万 控除が4200万だから 申告納税が必要です もらうのが100万でも、相続税はかかりますよ 遺産が控除額を上回っているので。まだ、分割されていなくても、申告しないとならないです」 (出典:Yahoo!知恵袋、2024年7月30日投稿/質問ページ)
質問者は「自分が受け取るのは3,000万円だから、基礎控除の4,200万円には届かない」と考えていたようです。
しかし、相続税がかかるかどうかは、遺産全体の6,000万円で判定します。基礎控除を1,800万円上回っているため、申告と納税が必要となってしまいます。
また、遺産の分け方が決まっていなくても、申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月)は延びないので注意しましょう。(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)
ちなみに、このケースで特例を使わなかった場合の相続税の総額は、およそ180万円です(基礎控除後の1,800万円を2人で分けて1人900万円、税率10%で1人90万円)。「取り分が少ないから大丈夫」と放っておくと、期限後に無申告加算税や延滞税が上乗せされます。
遺産を相続人のあいだでどう分けるかまだ決まっていないのに、申告なんてできるんですか?
できます。分割が決まっていない場合は、法定相続分どおりに分けたと仮定して申告します。これを「未分割申告」といいます。ただし、未分割のままでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が原則使えないため、税額が高くなりやすい点に注意が必要です。
実家の土地は時価ではなく「路線価」で評価する
「実家を売ったら5,000万円くらいになるから、それだけで基礎控除を超えてしまう」こうした心配も、多くの場合は計算の前提が違っています。
相続税では、土地は時価(実際に売れる値段)ではなく、国税庁が毎年公表する路線価で評価します。路線価は公示地価の約8割が目安です。(出典:国税庁「令和8年分の路線価等について」)建物は、固定資産税の評価額で計算します。(出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価」)
さらに、亡くなった方が住んでいた自宅の土地を配偶者や同居していた子が相続する場合は、小規模宅地等の特例が使えます。小規模宅地等の特例とは、330㎡までの部分について、評価額を最大80%減らせる制度です。(出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」)
| 評価の方法 | 自宅の土地(200㎡)の評価額 | 備考 |
|---|---|---|
| 時価(不動産サイトの相場) | 5,000万円 | 相続税の計算には使わない |
| 路線価による評価 | 約4,000万円 | 時価の約8割が目安 |
| 小規模宅地等の特例を適用後 | 約800万円 | 路線価評価から80%減 |
同じ土地でも、評価の仕方によって5,000万円が800万円まで下がります。時価で計算して「超えそう」と焦っている方は、まず路線価で計算し直してみてください。路線価は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
小規模宅地等の特例って、実家に住んでいない子どもでも使えるんですか?
原則として、別居している子は使えません。使えるのは、配偶者、亡くなった方と同居していた親族、そして一定の条件を満たす「持ち家のない別居親族」(いわゆる家なき子)です。自分が対象になるかどうかで税額が大きく変わるため、ここは必ず税理士に確認してください。
遺産から差し引けるもの|生命保険の非課税枠・借金・葬式費用
判定のときに引き忘れやすいのが、非課税枠と控除です。主なものは次の3つです。
- 生命保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数(相続人3人なら1,500万円)
- 借金・未払いの税金など:亡くなった方の債務は遺産から差し引ける
- 葬式費用:通夜・告別式・火葬などの費用を差し引ける(香典返しや法要の費用は対象外)
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」、国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」、国税庁「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」)
たとえば相続人が3人で、生命保険金を2,000万円受け取った場合、課税の対象になるのは1,500万円を引いた500万円だけです。「保険金2,000万円も遺産に入れたら超えてしまう」と思っていた方は、ここで判定が変わる可能性があります。
死亡保険金は受取人のお金だと聞いたので、遺産には含めなくていいんですよね?
いいえ、亡くなった方が保険料を払っていた死亡保険金は、相続税の計算では「みなし相続財産」として遺産に含めます。そのうえで、500万円×法定相続人の数までを非課税として差し引きます。保険金は受取人固有の財産なので遺産分割の対象にはなりませんが、相続税の計算には入る点に注意が必要です。
3ステップでわかる「うちは相続税がかかる?」判定法
ここまでの内容を、3つのステップにまとめます。
- 財産を正しい方法で評価する(土地は路線価、建物は固定資産税評価額、預貯金は残高)
- 非課税枠と控除を差し引く(生命保険の非課税枠・借金・葬式費用、使えるなら小規模宅地等の特例)
- 基礎控除額と比べる(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
モデルケース:父が亡くなり、母と子2人が相続する場合
法定相続人は3人なので、基礎控除額は4,800万円です。
| 財産・控除 | 時価で計算した場合 | 正しい方法で計算した場合 |
|---|---|---|
| 自宅の土地(母が相続) | 5,000万円 | 800万円(路線価4,000万円→特例で80%減) |
| 自宅の建物 | 1,000万円 | 500万円(固定資産税評価額) |
| 預貯金 | 2,500万円 | 2,500万円 |
| 生命保険金 | 2,000万円 | 500万円(非課税枠1,500万円を差し引き) |
| 葬式費用 | 考慮せず | ▲200万円 |
| 合計 | 1億500万円 | 4,100万円 |
| 基礎控除(4,800万円)との比較 | 大きく超える | 下回る → 相続税0円 |
時価で計算すると1億円を超えて「かなりの相続税がかかる」と見えます。しかし正しく評価すると4,100万円になり、基礎控除の4,800万円を下回ります。
基礎控除を超えた場合の相続税額の目安
特例を使ったあとでも基礎控除を超える場合の、相続税の総額の目安です(国税庁の税率表で計算)。
| 遺産総額(控除後) | 子2人が相続 | 配偶者+子2人が相続(※) |
|---|---|---|
| 5,000万円 | 80万円 | 10万円 |
| 7,000万円 | 320万円 | 113万円 |
| 1億円 | 770万円 | 315万円 |
※配偶者が法定相続分(2分の1)を取得し、配偶者の税額軽減を適用した場合。税率は国税庁「No.4155 相続税の税率」をもとに計算しています。
「遺産相続で7000万、受けとることになってますが、相続税、3000万払わないといけませんが、3000万を払えない場合はどうなりますか」 (出典:Yahoo!知恵袋、2025年2月7日投稿/質問ページ)
質問者は7,000万円のうち3,000万円、つまり4割以上が税金で消えると考えて追い詰められていました。しかし、遺産総額7,000万円を子1人が相続する場合でも、相続税は約480万円です(基礎控除3,600万円を引いた3,400万円に税率20%をかけ、控除額200万円を引く)。子2人なら総額約320万円まで下がります。
実際の税額は相続人の数や特例の使い方で変わりますが、「3,000万円」は明らかに過大な見積もりです。数字を正しく把握できれば、「払えない」という不安の大部分は解消できます。まずは税理士に概算を出してもらい、本当の金額を確認することが大切です。
相続税が「数千万円」かかると思い込んでいたんですが、実際はずっと少ないこともあるんですね?
はい、あります。相続税は遺産全体に一律の税率をかけるのではなく、基礎控除を引いた残りを法定相続分で分け、金額に応じた段階的な税率をかける仕組みです。そのため、税負担の割合は多くの人が想像するよりかなり低くなります。遺産1億円・子2人のケースでも、税額は約770万円で、遺産の1割に届きません。
税金ゼロでも申告が必要なケースに注意
モデルケースのように、特例を使った結果として相続税がゼロになる場合は注意が必要です。小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は、相続税の申告をしないと使えません。(出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」、国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)
| ケース | 相続税 | 申告 |
|---|---|---|
| 特例を使わなくても基礎控除以下 | かからない | 不要 |
| 特例を使って基礎控除以下になる | かからない | 必要 |
| 配偶者の税額軽減で税額が0円になる | かからない | 必要 |
| 特例を使っても基礎控除を超える | かかる | 必要 |
「税金がかからないから何もしなくていい」と判断して申告しなかった場合、特例は使えず、本来の税額に加算税や延滞税が上乗せされるおそれがあります。申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月です。(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)スケジュールの立て方は「相続税の申告期限は10ヶ月|過ぎたらどうなる?延長できる?」で詳しく解説しています。
特例を使って税金がゼロになるだけなら、申告書も簡単なんじゃないですか?
必ずしも簡単ではありません。小規模宅地等の特例は、土地の評価と特例の要件確認の両方が必要で、相続税申告の中でも間違いが起きやすい部分です。要件を満たしていないのに適用すると、後から追徴課税を受けることになります。自分で申告できるかどうかの判断基準は「相続税申告は自分でできる?」を参考にしてください。
基礎控除ギリギリなら、早めに税理士へ相談を
相続税がかかるかどうかは、財産の評価しだいで数百万円単位で変わります。次のような場合は、自分だけで判定せず、早めに税理士へ相談することをおすすめします。
| 相談をおすすめするケース | 理由 |
|---|---|
| 路線価で計算しても、基礎控除との差が1,000万円以内 | 評価の細かな違いで、かかる・かからないの判定が変わりやすい |
| 小規模宅地等の特例を使えるかどうか分からない | 特例の有無で、土地の評価額が最大80%変わる |
| 土地が複数ある、または自宅以外に貸している不動産がある | 土地ごとに評価方法や使える特例が異なる |
| 非上場株式や、評価の難しい財産がある | 評価に専門的な計算が必要になる |
| 相続人同士で遺産の分け方がまとまりそうにない | 分け方が決まらないと、特例が使えず税額が高くなりやすい |
多くの税理士事務所は、相続税がかかるかどうかの簡易判定を無料で行っています。「かからなかったら相談料がもったいない」と考えず、まずは概算を出してもらうことが、結果的に一番安上がりです。
相続税がかからなかった場合でも、税理士に相談したお金は無駄になりませんか?
無駄にはなりません。「かからない」と確認できれば、申告しなかったことで後から税務署に指摘される不安がなくなります。逆に「かかる」と分かれば、特例の検討や期限までの準備を早く始められます。初回の簡易判定は無料で行っている事務所が多いため、費用をかけずに確認することも可能です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。