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相続税の基礎

相続税の配偶者控除 母が全部相続すると二次相続で損する理由【2026】

著者:相続税ナビ 編集部
相続税配偶者控除配偶者の税額軽減二次相続遺産分割

父が亡くなり、家族で集まったときに「とりあえず全部お母さんに」という話になった。配偶者控除があるから税金はかからないらしい。でも、本当にそれで大丈夫なのか、どこかで引っかかっていませんか。

その引っかかりは正しい感覚です。配偶者控除は、一度の相続だけを見れば非常に強力な制度です。しかし、母が亡くなったときの相続(二次相続)まで含めると、「全部お母さんに」が家族全体で一番高くつくケースは珍しくありません。

この記事では、配偶者控除の正しい仕組みと使うための条件、そして4つの分け方で一次相続と二次相続の合計税額がどう変わるかを、国税庁の情報をもとに解説します。

結論|配偶者控除は「1億6,000万円か法定相続分の多いほう」まで非課税

一般に「相続税の配偶者控除」と呼ばれる制度の正式名は、配偶者の税額の軽減です。配偶者が遺産分割や遺贈で実際に取得した正味の遺産額が、次のどちらか多い金額までなら、配偶者に相続税はかかりません。
(出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額:子がいる場合は遺産の2分の1

たとえば遺産が4億円で、相続人が母と子2人の場合、母の法定相続分は2分の1の2億円です。1億6,000万円より多いため、母は2億円まで相続しても相続税がかかりません。

遺産が1億6,000万円以下の家庭であれば、配偶者がすべてを相続しても、配偶者の相続税は0円になります。一般的な家庭で「お母さんが相続すれば税金はかからない」と言われるのは、このためです。

実際の口コミ実際の口コミ

「今年父が亡くなり、遺言書で『妻へ全財産を相続させる』と記載されていました。 子供は私と妹です。(中略)・それとも母の相続分が全財産で、母の法定相続分の2200万円を超えており、配偶者の控除1億6000万円を使う申請しないといけないのか?」

ベストアンサー:「1億6000万円は正確には『配偶者の税額軽減』と呼びます。それは確かに、配偶者の法定相続分と比べて、どちらか大きい方の金額まで税額を軽減できるというもので、相続税の申告が必要なものです。」
(出典:Yahoo!知恵袋、2025年11月19日投稿/質問ページ)

この質問者のように、「法定相続分を超えて相続したら、配偶者控除の手続きが必要なのか」と迷う人は多くいます。答えは、遺産総額が基礎控除を超えるかどうかで変わります。この方のケースでは遺産4,400万円に対して基礎控除が4,800万円(3,000万円+600万円×3人)なので、そもそも相続税がかからず、配偶者控除を使うための申告も必要ありません。基礎控除の判定は「相続税はいくらから?」で詳しく解説しています。

山田くん山田くん

母の取り分が法定相続分の半分を超えたら、超えた部分には税金がかかるんじゃないんですか?

司法書士の先生司法書士の先生

かかりません。配偶者控除の上限は「1億6,000万円」と「法定相続分」の多いほうです。遺産が1億6,000万円以下なら、法定相続分を超えて全額を相続しても、配偶者の相続税は0円です。法定相続分を超えるかどうかを気にする必要があるのは、遺産が1億6,000万円を超える場合だけです。

税金ゼロでも申告しないと使えない。2つの条件

配偶者控除は、条件を満たせば自動的に適用されるわけではありません。使うためには、次の2つが必要です。

  • 相続税の申告書を出すこと:税額軽減の明細を書き、戸籍謄本や遺産分割協議書の写しなどを添える
  • 申告期限までに遺産を分けること:分割されていない財産は、税額軽減の対象にならない

(出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)

遺産分割協議書の写しを添える場合は、相続人全員の印鑑証明書も必要です。つまり、子どもたちの協力がなければ、母は配偶者控除を使えません。冒頭の「書類を出して」という話は、この手続きのためであることがほとんどです。

申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)
期限までに話し合いがまとまらない場合の扱いは、次のとおりです。

申告期限の時点 配偶者控除 必要な手続き
遺産分割が終わっている 使える 申告書に明細と書類を添えて提出
分割が終わっていないが「申告期限後3年以内の分割見込書」を出した 3年以内に分割すれば使える 分割成立の翌日から4ヶ月以内に更正の請求
分割が終わらず、見込書も出していない 使えない ―

(出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)

分割がまとまらないまま申告するときは、いったん配偶者控除なしで計算した相続税を納めることになります。あとで取り戻せるとはいえ、一時的に大きな現金が必要になる点に注意が必要です。申告期限のスケジュールは「相続税の申告期限は10ヶ月」で解説しています。

山田くん山田くん

税金が0円になるなら、申告書なんて出さなくても税務署にはバレないんじゃないですか?

司法書士の先生司法書士の先生

いいえ、出さなければ配偶者控除は使えません。基礎控除を超える遺産がある場合、申告しなければ、配偶者控除がない状態の相続税を納める義務が残ります。さらに無申告加算税や延滞税も加わります。「0円になる申告」こそ、期限内に出すことが重要です。

「全部お母さんに」が二次相続で高くつく3つの理由

父が亡くなったときの相続を一次相続、そのあと母が亡くなったときの相続を二次相続と呼びます。一次相続で母がすべてを相続すると、その財産は二次相続で母の固有の財産と合わせて、子どもたちに課税されます。二次相続の税額が重くなりやすい理由は3つです。

  • 基礎控除が600万円減る:法定相続人が1人減るため、子2人なら4,800万円から4,200万円になる
  • 配偶者控除がない:二次相続では配偶者がいないため、最大の控除が使えない
  • 小規模宅地等の特例が使えないことがある:実家に同居していない子が相続すると、原則として使えない

基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
(出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」)
配偶者は自宅の土地について無条件で小規模宅地等の特例を使えますが、子が使うには同居などの要件があります。
(出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」)
特例の要件は「小規模宅地等の特例」で詳しく解説しています。

さらに、相続税は財産が多いほど税率が上がる仕組みです。一次相続で2人に分かれていた財産が、二次相続では母1人分にまとまるため、高い税率の段階に入りやすくなります。

実際の口コミ実際の口コミ

「相続について。実家の父が亡くなりました。土地、家、株、貯金を全て母が相続するので、書類を出して欲しいと母に言われています。」
(出典:Yahoo!知恵袋、2024年3月25日投稿/質問ページ)

この質問への回答は、ほとんどが「母が全部相続するのは普通のこと」というものでした。気持ちの面ではそのとおりで、母の老後の生活を考えれば自然な判断です。ただし、財産の額によっては、その「普通」が二次相続で数百万円の差になります。書類を出す前に、一度だけ合計税額を確認しておく価値はあります。

山田くん山田くん

母が全部相続しても、結局いつかは子どもに渡るんですよね?順番が変わるだけで、税金の合計は同じじゃないんですか?

司法書士の先生司法書士の先生

同じにはなりません。二次相続では基礎控除が減り、配偶者控除も使えず、財産がまとまることで税率も上がります。同じ財産でも、一次相続でどう分けたかによって、二次相続まで含めた合計税額は大きく変わります。次の章で具体的な数字を示します。

4つの分け方で一次+二次の合計税額を比べる

先に結論をお伝えします。父の遺産を「全部お母さんに」と分けると、家族が払う相続税の合計は一番高くなります。

例として、次のような家族で計算しました。

  • 家族:父・母・子2人
  • 父の遺産:1億円
  • 母自身の貯金:1,000万円

父の遺産1億円を母にいくら渡すかで、税金は次のように変わります。

父の遺産の分け方 ①父が亡くなったときの税金 ②母が亡くなったときの税金 ①+②の合計
母に全部(1億円) 0円 960万円 960万円
母に半分(5,000万円) 315万円 180万円 495万円
母に3割(3,000万円) 441万円 0円 441万円(最も安い)
母は0円(子が全部) 630万円 0円 630万円

(出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」、国税庁「No.4155 相続税の税率」)

「母に全部」と「母に3割」では、合計で519万円もの差がつきます。

なぜ「母に全部」が一番高くなるのか

理由はシンプルで、税金がかかるタイミングが「父のとき」から「母のとき」に先送りされているだけだからです。

  • ①父が亡くなったとき:母が受け取った分は配偶者控除で0円。子が受け取った分にだけ税金がかかる
  • ②母が亡くなったとき:母の財産(父から受け取った分+自分の貯金)が4,200万円以下なら0円。超えると、配偶者控除がないため税金がかかる

「母に全部」の場合、母の財産は1億1,000万円になり、母が亡くなったときに基礎控除4,200万円を大きく超えます。父のときに0円にした税金が、母のときにまとめて、しかも高い税率でかかってしまうのです。

反対に「母に3割」なら、母の財産は3,000万円+1,000万円=4,000万円で、4,200万円以下に収まります。父のときに子が少し税金を払う代わりに、母のときの税金を0円にできるため、合計が最も安くなります。

計算の内訳を見る
  • ①父が亡くなったとき:1億円−基礎控除4,800万円=5,200万円。これを法定相続分で分けると、母2,600万円×15%−50万円=340万円、子1,300万円×15%−50万円=145万円(×2人)で、相続税の総額は630万円。この630万円を実際に受け取った割合で割り振り、母の分は配偶者控除で0円になる
  • ②母が亡くなったとき(母に全部の場合):1億1,000万円−基礎控除4,200万円=6,800万円。子1人あたり3,400万円×20%−200万円=480万円で、2人で960万円
  • 前提:母が亡くなるまでに財産額は増減しないものとし、小規模宅地等の特例は考慮していない

(出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」)

なお、母が一次相続で相続税を納めていて、二次相続が10年以内に起きた場合は、相次相続控除で二次相続の税額から一定額が差し引かれます。控除額は前回の相続税額から1年につき10%ずつ減っていきます。
(出典:国税庁「No.4168 相次相続控除」)
このモデルでは母の一次相続の税額が0円のため、相次相続控除はありません。

山田くん山田くん

じゃあ、母には法定相続分より少なく相続してもらうのが正解なんですね?

司法書士の先生司法書士の先生

税額だけを見ればそうなるケースが多いですが、それだけで決めるのは危険です。このモデルは、母が二次相続までお金を使わず、財産額も変わらないという単純な前提で計算しています。実際には、母の年齢や健康状態、老後に必要なお金によって最適な割合は変わります。必ずご家族の状況に合わせて試算してください。

税額だけで決めない。母の生活費と住まいを先に確保する

合計税額が最も少ない分け方が、家族にとって最善とは限りません。母が子どもに財産を渡しすぎて、老後の生活費や介護費用が足りなくなれば、本末転倒です。

分け方を考えるときは、次の順番で検討するのが現実的です。

  • 1. 母の住まいを決める:自宅を母が相続するか、同居する子が相続するか
  • 2. 母の生活資金を確保する:年金収入と今後の支出から、母が持っておくべき預貯金を見積もる
  • 3. 残りの配分で二次相続を調整する:上記を確保したうえで、子が相続する割合を決める

母が十分な財産を相続し、その後に子や孫へ少しずつ生前贈与をするという方法もあります。ただし、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に加算されるため、早めに始めることが大切です。注意点は「生前贈与の7年ルール」で解説しています。

山田くん山田くん

母が全部相続すれば、少なくとも一次相続では税金を払わなくていいので、現金が手元に残って安心な気がするんですが…。

司法書士の先生司法書士の先生

その考え方には一理あります。一次相続で子が相続税を払うと、その分の現金が今すぐ必要になります。現金が少なく不動産が多い家庭では、母に多めに相続してもらうほうが納税の負担を避けられることもあります。どちらを優先するかは、手元資金と二次相続の税額を並べて判断するべきです。

配偶者控除を使う前に税理士へ相談すべきケース

配偶者控除で一次相続の税金が0円になる家庭ほど、二次相続の試算をせずに申告してしまいがちです。次のケースに当てはまる場合は、遺産分割協議の前に税理士へ相談することをおすすめします。

相談すべきケース 理由
父の遺産が1億円を超える 一次と二次で税率の段階が変わり、分け方による差が大きい
母自身の財産が多い 二次相続で母の財産と合算され、税額が増えやすい
母が高齢、または病気療養中 二次相続までの期間が短く、相次相続控除も含めた計算が必要
子が実家に住んでいない 二次相続で小規模宅地等の特例が使えないおそれがある
相続人の間で分け方の意見が割れている 申告期限までに分割できないと、配偶者控除がすぐには使えない

二次相続のシミュレーションは、税理士に依頼するのが一般的です。自分で申告するか、税理士に頼むかの判断基準は「相続税申告は自分でできる?」で解説しています。

山田くん山田くん

まだ母は元気なのに、二次相続の話まで税理士に頼むのは大げさじゃないですか?

司法書士の先生司法書士の先生

大げさではありません。二次相続の税額を減らせるかどうかは、一次相続の遺産分割でほぼ決まります。いったん分割が終わると、あとから母の財産を子に移すには贈与税がかかります。やり直しがきかない場面だからこそ、分割協議の前に一度だけ試算しておくべきです。

よくある質問

申告期限のあとで遺産分割がまとまった場合、配偶者控除は使えますか?

申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付していれば、申告期限から3年以内に分割したときに使えます。その場合は、分割が成立した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をする必要があります。
(出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)

遺産が基礎控除以下でも、配偶者控除の申告は必要ですか?

必要ありません。遺産の総額が基礎控除以下であれば、相続税はかからず、申告自体が不要です。配偶者控除の申告が必要になるのは、基礎控除を超える遺産があり、配偶者控除を使って税額を0円または少なくする場合です。
(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)

母が一次相続で相続税を払っていた場合、二次相続で何か控除はありますか?

二次相続が一次相続から10年以内であれば、相次相続控除を受けられます。前回母が納めた相続税額のうち、1年につき10%ずつ減らした金額が、今回の相続税額から差し引かれます。
(出典:国税庁「No.4168 相次相続控除」)


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。

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