親が亡くなり、保険会社から死亡保険金の案内が届いた。あるいは、親が「相続税対策に」と保険に入ろうとしている。死亡保険金には非課税枠があると聞くけれど、自分のケースで本当に使えるのか、自信を持てずにいませんか。
死亡保険金の非課税枠は、相続税対策の定番です。しかし、誰が保険料を払い、誰が受け取るかによっては、非課税枠が1円も使えないことがあります。しかも、それに気づくのは多くの場合、保険金を受け取ったあとです。
この記事では、死亡保険金の非課税枠の仕組みと、枠が使えなくなる3つのケース、預貯金と比べたときの効果を、国税庁の情報をもとに解説します。
結論|非課税になるのは「500万円×法定相続人の数」まで
亡くなった人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続で取得したものとみなされ、相続税の対象になります。ただし、受取人が相続人であれば、すべての相続人が受け取った保険金の合計のうち「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」)
| 法定相続人の数 | 非課税枠 | 家族構成の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 500万円 | 子1人 |
| 2人 | 1,000万円 | 配偶者+子1人/子2人 |
| 3人 | 1,500万円 | 配偶者+子2人 |
| 4人 | 2,000万円 | 配偶者+子3人 |
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」)
法定相続人の数には、相続放棄をした人も含めて数えます。養子がいる場合に数に含める養子は、実子がいれば1人、実子がいなければ2人までです。
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」)
たとえば相続人が子2人で、死亡保険金を1,500万円受け取った場合、非課税枠1,000万円を引いた500万円だけが相続税の計算に入ります。遺産全体が基礎控除以下に収まれば、相続税はかかりません。基礎控除の判定は「相続税はいくらから?」で解説しています。
死亡保険金って、受取人のお金ですよね?親の遺産じゃないのに、なんで相続税がかかるんですか?
民法上は受取人固有の財産ですが、税金の計算では別の扱いになります。亡くなった人が保険料を払っていた場合、実質的には亡くなった人のお金が受取人に移っているため、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。その代わりに、遺族の生活を守る目的で非課税枠が設けられています。
使えないケース① 契約形態が「相続税」型ではない
死亡保険金にかかる税金は、相続税とは限りません。被保険者、保険料の負担者、保険金受取人が誰かによって、所得税、相続税、贈与税のいずれかになります。
(出典:国税庁「No.1750 死亡保険金を受け取ったとき」)
| 被保険者 | 保険料の負担者 | 受取人 | かかる税金 | 非課税枠 |
|---|---|---|---|---|
| 父 | 父 | 子 | 相続税 | 使える |
| 父 | 子 | 子 | 所得税(一時所得) | 使えない |
| 父 | 母 | 子 | 贈与税 | 使えない |
(出典:国税庁「No.1750 死亡保険金を受け取ったとき」)
相続税がかかるのは、被保険者と保険料の負担者が同じ人の場合です。保険料の負担者と受取人が同じなら所得税、3者がすべて違えば贈与税になります。
注意したいのは、「契約者」の名義ではなく、「実際に保険料を払っていた人」で判断される点です。子が契約者でも、保険料を親の口座から払っていたなら、親が負担者として扱われる可能性があります。保険証券の名義だけで判断せず、保険料の引き落とし口座も確認しましょう。
母が保険料を払っていた父の保険を私が受け取ったら、贈与税になるんですか?贈与税って高いと聞いたんですが…。
はい、被保険者が父、保険料の負担者が母、受取人が子なら贈与税の対象です。贈与税は相続税より税率の上がり方が急で、非課税枠もありません。同じ保険金額でも税負担が大きくなりやすいため、加入中の保険がこの形になっていないか、早めに確認すべきです。
使えないケース② 受取人が相続放棄をした
相続放棄をしても、死亡保険金は受け取れます。ただし、非課税枠は使えなくなります。
借金があるなどの理由で相続放棄をしても、受取人に指定されていれば保険金は受け取れます。しかし非課税枠を使えるのは、受取人が相続人である場合だけです。相続放棄をした人は、ここに含まれません。
| 相続放棄をしない | 相続放棄をした | |
|---|---|---|
| 死亡保険金を受け取れるか | 受け取れる | 受け取れる |
| 自分の保険金に非課税枠を使えるか | 使える | 使えない |
| 「法定相続人の数」に数えるか | 数える | 数える |
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」)
たとえば、相続放棄をした子が保険金1,000万円を受け取ると、1,000万円全額が相続税の計算に入ります。
一方で、放棄した人も「法定相続人の数」には数えます。そのため、ほかの相続人が使える非課税枠の合計額は減りません。
⚠️相続放棄の期限は、原則として相続の開始を知ってから3ヶ月以内です⚠️
(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)
保険金がある場合は、放棄するかどうかを決める前に、保険金にかかる相続税も含めて損得を確認しておきましょう。
借金があるので相続放棄するつもりです。保険金はもらえても、全部に税金がかかるなら、放棄しないほうが得なんですか?
一概には言えません。保険金に相続税がかかるのは、保険金を含めた遺産全体が基礎控除を超える場合だけです。多くの家庭では、非課税枠がなくても基礎控除の範囲に収まります。借金の額と、保険金にかかる相続税の額を並べて比べたうえで判断すべきです。
使えないケース③ 受取人が孫など相続人以外
孫など相続人ではない人を受取人にすると、損が2つ重なります。
- 1. 非課税枠が使えない:相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、非課税枠の適用がない
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」) - 2. 相続税額が2割増える:亡くなった人の配偶者・父母・子以外の人が財産を取得すると、その人の相続税額に2割が加算される
(出典:国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」)
相続人ではない人とは、たとえば子が生きている場合の孫や、内縁の配偶者などです。こうした人が受取人になっていると、保険金の全額が相続税の対象になり、さらに税額も2割増えます。
受取人ごとの違いは、次のとおりです。
| 受取人 | 非課税枠 | 相続税額の2割加算 |
|---|---|---|
| 配偶者・子(相続人) | 使える | なし |
| 相続放棄をした子 | 使えない | なし |
| 孫(子が健在で、養子でない) | 使えない | あり |
| 兄弟姉妹(相続人の場合) | 使える | あり |
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」、国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」)
「孫にお金を残したい」という目的で受取人を孫にしている保険は少なくありません。相続税がかかる規模の遺産がある場合は、受取人を子にしたうえで、孫には別の方法で渡すほうが有利になることがあります。
孫を受取人にした保険に入ってしまっています。今からでも受取人を変えられるんですか?
被保険者が存命中であれば、多くの保険で受取人の変更ができます。手続きは保険会社ごとに異なるため、まず契約先に確認してください。ただし受取人の変更は、税金だけでなく家族の意向にも関わります。変更の目的を家族で共有したうえで進めることが大切です。
非課税枠でどれだけ減る?預貯金と保険の比較
非課税枠の効果を、同じ5,000万円の財産で比べてみます。相続人は子2人、非課税枠は1,000万円、基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)です。
(出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」)
| 項目 | 預貯金5,000万円のまま | 1,000万円を保険にした場合 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 5,000万円 | 4,000万円 |
| 死亡保険金 | ― | 1,000万円(非課税枠1,000万円を引いて0円) |
| 課税価格の合計 | 5,000万円 | 4,000万円 |
| 基礎控除を引いた額 | 800万円 | 0円 |
| 相続税の総額 | 80万円 | 0円 |
預貯金のままの場合は、800万円を子2人で分けた400万円に税率10%をかけ、1人40万円、合計80万円になります。
(出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」)
同じ財産でも、非課税枠の範囲で保険にしておくだけで、相続税が0円になるわけです。
「相続税対策で、死亡保険金の非課税枠を使うことが目的です 相続人は2人なら1000万円 となると思います 1000万円以上かけても意味ないですかね」
ベストアンサー:「非課税枠目的ならそれ以上は意味ないです
受取人を指定する目的なら
いくらでも意味あります」
(出典:Yahoo!知恵袋、2024年5月18日投稿/質問ページ)
回答のとおり、非課税枠を超えた部分は、預貯金と同じように相続税の計算に入ります。相続税を減らす効果があるのは、非課税枠の範囲までです。保険料の払い込みで手元の現金が減りすぎないよう、非課税枠の金額を目安に保険金額を決めるのが基本です。
非課税枠いっぱいまで保険に入れば、必ず得をするんですか?
相続税がかかる家庭であれば、非課税枠の範囲内の保険は相続税を減らします。ただし、遺産が基礎控除以下でもともと相続税がかからない家庭では、節税効果はありません。また、保険料の払い込み総額が保険金額を上回る商品や、外貨建てで為替の影響を受ける商品もあるため、相続税だけで加入を決めるべきではありません。
枠を超える保険にも意味はある。受取人固有で、すぐ受け取れる
非課税枠を超える保険にも、相続税とは別の役割があります。死亡保険金は受取人が請求して受け取るため、遺産分割の話し合いを待つ必要がありません。
「相続対策は、死亡したときの死亡診断書(役所へ出したものの写し)があれば、死亡受取人は手続きできるので、戸籍謄本など相続関係書類集める前に保険金を受け取れます。」
(出典:Yahoo!知恵袋、2026年5月24日投稿の質問への回答/質問ページ)
亡くなった人の預貯金は、原則として遺産分割が終わるまで自由に引き出せません。一方で死亡保険金は、受取人が単独で手続きできるため、葬儀費用や相続税の納税資金にすぐ充てられます。相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、原則として現金で一括納付する必要があります。
(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)
遺産の多くが不動産で現金が少ない家庭ほど、死亡保険金が納税資金として役立ちます。納税資金が足りないときの対処法は「相続税が払えないとき」で解説しています。
保険金は受取人のものなら、遺産分割で他の兄弟に分けなくてもいいんですか?
原則として、死亡保険金は遺産分割の対象ではないため、受取人が受け取ります。ただし、保険金の額が遺産全体と比べて極端に大きいなど、相続人の間で著しく不公平になる場合は、例外的に考慮されることがあります。兄弟の関係を考えると、受取人や金額は生前に家族で共有しておくほうが安全です。
受け取ったら確認すること・相談すべきケース
死亡保険金を受け取ったら、まず保険会社から届く支払明細と保険証券で、次の3点を確認しましょう。
- 保険料を誰が負担していたか:相続税・所得税・贈与税のどれになるかが決まる
- 受取人が相続人かどうか:相続放棄をした人や孫は非課税枠を使えない
- 遺産全体が基礎控除を超えるか:保険金の課税部分を含めて判定する
| 相談すべきケース | 理由 |
|---|---|
| 契約者・被保険者・受取人がすべて違う | 贈与税の対象になり、税負担が大きくなりやすい |
| 受取人が孫や兄弟姉妹になっている | 非課税枠が使えず、2割加算の対象になることがある |
| 保険金が非課税枠を大きく超える | 遺産全体で基礎控除を超え、申告が必要になる可能性が高い |
| 相続放棄を検討している | 放棄した人の保険金は全額が課税対象になる |
遺産全体が基礎控除を超える場合は、相続税の申告が必要です。自分で申告するか、税理士に依頼するかの判断基準は「相続税申告は自分でできる?」で解説しています。
保険会社から税務署に連絡が行くって本当ですか?申告しなくても分からないと思っていたんですが…。
本当です。保険会社は、一定額を超える死亡保険金を支払った場合、支払調書を税務署に提出します。税務署は保険金の支払いを把握しているため、申告が必要な人が申告しなければ、後から指摘を受けることになります。申告が必要かどうかは、保険金を含めた遺産全体で必ず確認すべきです。
よくある質問
非課税枠は、受取人が複数いるときどう分けますか?
非課税枠の合計額を、相続人それぞれが受け取った保険金の額の割合で分けます。たとえば非課税枠が1,000万円で、子Aが1,200万円、子Bが800万円を受け取った場合、非課税になる額は子Aが600万円、子Bが400万円です。
(出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」)
遺産が基礎控除以下なら、死亡保険金の申告は必要ですか?
必要ありません。保険金の課税部分を含めた財産の合計が基礎控除以下であれば、相続税の申告も納税も不要です。
(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)
死亡保険金を年金形式で受け取った場合はどうなりますか?
年金で受け取る場合は、年金を受け取る権利に対して相続税がかかります。さらに毎年受け取る年金のうち一定の部分には所得税がかかり、原則として源泉徴収されます。
(出典:国税庁「No.1750 死亡保険金を受け取ったとき」)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なご相談は専門家にお問い合わせください。